「横浜市立脳血管医療センター医療機能 検討会議」報告書叩き台

  • 1.脳血管医療センター設置の経緯と今回の検討の背景
     ・横浜市立脳血管医療センターは、老朽化・狭隘化した老人リハビリテーション友愛病院の再整備事業として、 平成3年10月にまとめられた『友愛病院基本構想検討委員会報告書』をもとに整備が行われ、平成11年8月に開院 した。
     ・同報告書によれば、脳血管医療センターの設置目的は、当時、横浜市では、「脳血管疾患を専門的に治療する 施設や専門医が必ずしも十分でない」状況があったことから、脳血管疾患に対し、「救命だけでなく、予防を含み、 発症直後からの早期リハビリテーションを重点的に行う」病院を整備することにより、「後遺症を最小限に抑え、 かつ再発を防ぎ、結果として寝たきりを防止し、患者とその家族にとって日常生活の質を向上させること」にあっ た。
       (「」は、平成3年10月『友愛病院基本構想検討委員会報告書』による。)
      ・この目的の達成に向け、脳血管医療センターでは、早期診断・治療のための24時間365日体制でのCT、MRIの稼働 や、急性期から回復期に至るまでの一貫し.たリハビリテーションなどに取り組んできた。
      ・一方、市民の医療ニーズの多様化、医療制度改革を初めとする経営環境の変化及び厳しい財政状況を踏まえ、 市立病院の役割、経営上の課題とその対策及び経営形態について検討するため、平成14年8月、市長の諮問機関として 「横浜市市立病院あり方検討委員会」が設置されたが、翌年3月に出された最終答申においては、脳血管医療センター について、
      ① 「脳血管疾患に対する早期治療と急性期から回復期に至るまでの一貫したリハビリテーションの実施というコン セプトは、(中略)理想的なものとして評価できる」が、「これを独立した一っの病院で行うことは、経営的に無理が ある」こと、「脳卒中ユニットも、総合病院の中の一つのユニットとしてであれば、医療機能面、経営面ともに効果 が期待できるが、独立した病院とすると弊害が多くなる」こと
      ② このコンセプトは、「経営主体の異なる複数の医療・福祉施設が連携を図ることでも実現できる」こと
      ③ 「脳血管医療センターは、他の病院のいわば附属施設として運用することにより、その機能を最も発揮できる ものとも考えられ、(中略)近くに市大センター病院があり、(中略)密接な連携を図るべきである」こと、「急性期 の治療やリハビリテーションの役割分担については、改めて検討を行う必要がある」ことなどが指摘されている。
       (「」は、平成15年3月『横浜市市立病院のあり方について最終答申』による。)
     ・また、平成15年8月に厚生労働省がまとめた「医療提供体制の改革のビジョン」では、地域の特性を生かしつ つ、医療機関相互の機能分担と連携を図り、がん、脳卒中、心臓病の治療などを含む必要な医療の提供を確保しよ うとする考え方が示され、国内のいくつかの地域では、脳血管疾患医療にっいても、急性期医療を担う医療機関と 回復期のリハビリテーションを中心とした医療を担う医療機関が相互に連携し、効率的に適切な医療を提供しよう とする状況が見られる。
      ・このような状況を踏まえ、横浜市全体として、より充実した脳血管疾患医療提供体制を構築していく観点から、 平成16年12月に「横浜市立脳血管医療センター医療機能検討会議」が設置され、脳血管疾患医療の効果的な提供体 制、その提供体制の中で脳血管医療センターが担うべき医療機能、市内医療機関との機能分担と連携について、専門 家や市民の立場から幅広く検討を行うこととなった。
      ・昨年12月の検討会議設置以降、○回の会議を経て、この度、「横浜市立脳血管医療センター医療機能検討会議報告 書」として検討結果を取りまとめたので、ここに提出する。

     2.市内の脳血管疾患医療の効果的な提供体制について
      (1) 脳血管疾患の救急対応について
      ・脳血管疾患の救急対応について、まず、救急車搬送に関しては、患者に明らかに脳血管疾患の症状が見られる 場合は、十分に訓練された救急隊が判断し、脳血管医療センターのような専門病院に搬送することも可能である。
      ・しかし、症状だけでは、脳血管疾患によるものかどうか判断が難しい場合が多い。このような場合には、例 えば、脳血管疾患も含め、様々な症例に対応できる総合的な救急診療機能を持った病院にまず搬送し、救急担当医が 診断を行った上で、脳血管疾患が疑われるのであれば、脳卒中専門医が診療することなどにより、より適切な医療の 提供が可能であり、むしろこうした対応が望ましいと考えられる。
      ・また、患者自身や家族については、脳血管疾患であるかどうかの判断は、なおさら困難である。患者自身が 直接、脳血管医療センターのような専門病院に救急来院した際に、もし脳血管疾患以外の疾患であった場合には、 専門医がいない等の理由により対応できず、他病院への転送が必要となる可能性があるため、一義的には、様々な 症例に対応できる総合的な病院を受診することが望ましい。
      ・脳血管疾患の救急対応については、こうした考え方をもとに、市全体の救急医療体制をまず整備する中で、 個々の医療機関の機能分担と連携体制を明確にしていく必要がある。しかし、横浜市においては、十分に行われてきた とは言いがたい。
      (2) 脳血管疾患の急性期医療について
      ・市内の主要な脳血管疾患を取り扱う医療機関を見てみると、市内の脳血管疾患の急性期医療体制は、現在、 必ずしも満足のいく状況とは言い切れず、全体として、なお一層のレベルの向上が望まれる。
      ・その中でも、.ストロークユニット(脳卒中ユニット。脳血管疾患の治療を集中的に行うため、各診療科の医師、 看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等のスタッフが協力し、共有化された診療方針に基づいてチーム医療 を行うことを言う。)については、重装備の施設や機器を要するものではなく、必要なときにスタッフが迅速に集ま れるシステムであるという考え方があり、この考え方に立てば、救命救急の機能を持つ急性期病院であれば、どこに でもストロークユニットを整備できる可能性があるため、これについては、より積極的に推進する必要がある。
      ・市立病院、市立大学病院、地域中核病院などの基幹となる病院にストロークユニットを整備することにより、 市内の脳血管疾患の急性期医療体制の充実を図ることができると考えられる。
      (3) 脳血管疾患の回復期リハビリテーション医療について
      ・脳血管疾患の予後の改善のためには、急性期リハビリテーションに引き続き、日常生活動作、歩行の自立等を 目標として、より専門的かつ集中的に行う回復期リハビリテーションの役割が重要であるが、人口10万人当たりの 回復期リハビリテーション病棟の病床数は、全国平均で約22床であるのに対し、横浜市では約8床となっており、 不足していると考えられる。
      ・急性期の治療を終えた脳血管疾患患者が、切れ目なく回復期リハビリテーションを受ける上で支障をきたして いると考えられ、急性期の脳血管疾患を担う市内医療機関からは、急性期治療後に専門的な体制で効果的にリハビリ テーションを提供する回復期リハビリテーション病棟の充実への期待が大きい。
      ・この現状は、横浜市における脳血管疾患医療提供体制の最大の弱点であり、回復期リハビリテーション病棟を 適正に配置するよう、計画的に整備し、急性期の脳血管疾患を担う医療機関との連携体制を確立していく必要がある。
      ・なお、急性期病棟と回復期リハビリテーション病棟を同じ病院内に配置した場合、我が国の医師の特性として、 生死を扱う急性期医療に傾注しがちなため、歪みが出てうまくいかないとの考え方もある。
      (4) 国における医療計画制度の見直し
      ・現在、厚生労働省では、「医療計画の見直し等に関する検討会」を設置し、平成18年の医療制度改革を念頭に おいた医療計画の見直しの方向性について検討を行っている。
      ・その中では、今後の保健医療提供体制の改革について、疾病予防(保健)から治療、介護(福祉)までのニーズに 応じた多様なサービスが、地域において一貫して提供される患者本位の医療を確立することを基本とすべきであると している。
      ・また、一つの医療機関だけで医療を完結する「医療機関完結型医療」から、地域の医療提供者が医療連携に よって患者の治療を分担、完結する「地域完結型医療」へという方向性が示され、例えば、脳卒中の場合は、 「地域の救急医療の機能」「回復期リハビリ機能」「療養を提供する機能」「介護サービスの機能1を地域の医療 機関等が連携によって担う考え方が示されている。
      (5) 脳血管疾患についての地域医療連携の仕組みづくり
      ・こうした状況を踏まえ、市全体としてより効果的な脳血管疾患医療の提供体制を構築するため、救急医療、 急性期医療、回復期リハビリテーションを通じて医療機関相互の機能分担と連携を推進する必要があり、市として 協議の場を設けるなど、連携を促進する体制を整備する必要がある。

     3.脳血管医療センターの医療機能について
     (1)脳血管医療センターの救急機能
      ・先にも述べたとおり、救急対応は、広範な医療分野を扱う総合的な病院のような機能を持たなければ十分な 医療を提供できない。脳血管医療センターは、専門病院の弱点として、脳血管疾患かどうか分かりにくい症例の患者 への対応が十分にできていないと考えられる。
      ・脳血管疾患によるものか判断が難しい患者については、広範な医療分野を扱い、救急患者にも対応できる総合 的な病院で受け入れることが望ましいが、脳血管医療センターが市内で最も多くの脳血管疾患の救急患者を受け入れて きたことも事実としてある。そこで、当面は、南部医療圏の患者を中心に、十分に訓練された救急隊が、明らかに 脳血管疾患であると判断した患者については、直接、脳血管医療センターで受け入れることが考えられる。
      ・しかし、本来は、脳血管疾患にっいての全市的な救急医療体制のあり方を検討する中で、脳血管医療センター の役割についても位置付けることが、より望ましいことから、救急対応における脳血管医療センターの役割について は、全市的な脳血管疾患の救急受入体剃の検討及びその整備状況を踏まえながら、市民に対して適切な医療を効率的に 提供する観点から、適時適正な体制に見直すことが必要である。
      (2) 脳血管医療センターの急性期医療機能
      ・横浜市内の急性期の脳血管疾患医療提供体制については、現在必ずしも満足のいく状況とは言い切れないが、 脳血管医療センターにっいても、ストロークユニットを設置していながら、実際には、チーム医療が機能していない、 クリニカルパスが運用されていない、合併症等の対応が十分にできていないなどの課題がある。
      ・このような状況を踏まえると、チーム医療・連携医療が適切に行えるようにすること、そのことを見すえた クリニカルパスを早急に運用すること、合併症等に十分対応できるよう診療科間でバランスよく医師を配置すること など、脳血管医療センターの課題を改善することを前提として、急性期医療を提供することが当面は望ましいと考 えられる。
      ・なお、将来、市内の脳血管疾患医療提供体制の充実が図られた場合は、脳血管医療センターが急性期医療に おいて担う役割について、市民に対して適切な医療を効率的に提供する観点から、適時適正な体制に見直すことが 必要である。
     (3) 脳血管医療センターのリハビリテーション機能
      ・市内に回復期リハビリテーション病棟の病床数が不足していることは、市の脳血管疾患医療提供体制の最大の課題である。脳血管医療センターにおいても、計画的に回復期リハビリテーション病棟を整備し、急性期医療との バランスを考慮しながら、可能な限り回復期リハビリテーションについて取り組んでいく必要がある。
      ・脳血管医療センターの安定期病棟については、医師、リハビリテーションスタッフなどを病棟に配置し、回復 期リハビリテーション病棟の施設基準を段階的に取得するとともに、急性期や維持期の医療機能を担う病院との連携の 中で、積極的に回復期のリハビリテーション医療を提供していく役割を担っていくことが望ましい。
      ・また、脳血管医療センター3階の急性期病棟81床については、診療単価の状況を見ると、極めて安定期病棟に 近い運用を行っていると考えられる。本来、急性期病棟と安定期病棟は、平均在院日数及び診療単価において、 もっとメリハリをつけて運用すべきであり、今後の急性期病棟の運痢状況及び安定期病棟の回復期リハビリテーション 病棟への移行状況を踏まえながら、将来的には、この3階急性期病棟81床についても、回復期リハビリテーション病棟 の施設基準を取得することを検討する必要がある。
      ・脳血管医療センターは、十分なリハビリテーションスタッフ(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等)を有し ながらも、日常のリハビリテーション業務に終始していたため、医療関係者への研修など、市のセンターとして本来 取り組むべきであった体制づくりが手薄になっている状況がある。今後は、地域との医療連携を深めるとともに、 リハビリテーションスタッフの人材育成・研修等を通じて、地域のリハビリテーション機能の向上に貢献していく必要 がある。
      ・なお、脳血管医療センターの診療単価は、他病院と比較して低いものとなっている。これは、様々な要因が考え られるが、ひとつには、リハビリテーションを行う病院としてはリハビリテーションの実施量が少ないことがある。 このため、リハビリテーションを充実して実施することなどにより、診療単価の向上を図り、収入を確保することが 必要である。
      (4) 脳血管疾患発症登録追跡システムなど情報機能の強化
      ・友愛病院基本構想検討委員会報告書では、脳血管医療センターの設置目的として、脳血管疾患の予防も含まれる ことが明記され、秋田県立脳血管研究センターで行われているような脳血管疾患の発症登録追跡システムについても、 「情報センター機能」として実施することとしていた。
      ・しかし、現在までそれを確立しなかったため、脳血管疾患についての分析ができず、予防・医療・介護までの 流れの中で、どこに問題があるかが特定できないまま脳血管医療センターを運営してきた。
      ・秋田県立脳血管研究センターにおいて脳血管疾患発症登録追跡システムを実施することで、県内の脳血管疾患 発症の抑制等に効果があったように、脳血管医療センターにおいても当初の設置目的のとおり、脳血管疾患発症登録 追跡システムを整備する必要がある。
      ・また、横浜市では、衛生局、福祉局の縦割り組織の中で、脳血管疾患患者が自立した生活を過ごせるようにする ための切れ目のない医療(救急医療一急性期医療一回復期リハ)一介護(通所リハー在宅リハ)のシステム整備が十分に 検討されてこなかった。
      ・そこで、国において、予防・医療・介護の切れ目のない連携による国民の健康への対応策が検討される中、 脳血管医療センターは、横浜市で唯一、予防・医療・介護に渡って連続して関与し得る施設であることを生かし、 予防・医療・介護に至る流れの中で何が不足しているかを分析し、地域医療機関、患者、市民に情報提供する機能を 発揮していくことで、横浜市全体の脳血管疾患の医療レベルの向上及び脳血管疾患に関する市民の啓発に貢献すること が必要である。このことは、市のセンターとして、直接の医療提供よりさらに重要な役割であると考えられる。

     4.今後の脳血管医療センターの運営方針について
      (1) 経営管理体制・組織管理体制の見直し
      ・脳血管医療センターは、毎年、一般会計から多大な金額を繰り入れて、なお、多額の赤字を出していることか ら、診療報酬制度上、請求できるものは確実に請求して収入の確保を図るなど、経営改善に真摯に取り組んでいく 必要がある。
     ・また、脳血管医療センターは、提供する医療の中で、どの部分が政策的に必要な医療として不採算になって いるのか、市民に対し十分に説明するとともに、その運営状況について、市民に分かりやすく情報提供する必要が ある。
      ・さらに、脳血管医療センターは、提供する医療の内容について、効果的に市民に広報し、その存在をアピール する必要がある。
      ・脳血管医療センターでは、看謹師などのスタッフの退職率が高いこと、職員が内部の状況について口を閉ざし、 発言しないことなど、内部の人間関係に大きな問題があるものと考えられる。
      ・また、チーム医療が機能していないこと、クリニカルパスが運用されていないこと、リハビリテーションの 実施量が少ないことなどから見ても、管理体制に問題があるものと考えられ、適切な医療提供に影響を及ぼしかね ない状況である。
      ・脳血管医療センター内部の人間関係や管理に問題があると考えられることを踏まえ、組織管理体制を抜本的に 見直すことで、チーム医療を推進し、良質な医療を提供する必要がある。
      (2) 市のセンターとしての役割
      ・脳血管医療センターの医療資源が、救急医療と急性期医療の分野に集中してしまったため、脳血管疾患について の連携体制の構築や政策提言、医療関係者への研修など、市のセンターとして本来取り組むべきであった体制づくりが 手薄になっている状況がある。
      ・そこで、当初の友愛病院基本構想検討委員会報告書の考え方に立ち返り、脳血管医療センターの開設目的を常に 意識した運営を行う必要がある。
      ・予防については、基本構想において脳血管医療センターの重要な機能の一つとして位置づけられていたにもかか わらず、これまで十分な対応がなされてきたとは言い難い。脳卒中予防キャンペーンにおいて中心的な役割を担うな ど、市の施策と連動した積極的な対応が望まれる。
     ・また、脳血管医療センターは、横浜市で唯一、予防・医療・介護に渡って連続して関与し得る施設であること から、市の施策と密接に連携できる有利な状況にあり、その利点を生かす必要がある。そこで病院経営局だけでなく、 衛生局、福祉局、消防局などの施策との連携を常に意識し、情報提供していく機能を中心として運営していくべきで ある。
      ・センター長は、南部医療圏及び周辺地域を含めた地域について、地域医療機関との連携協議会や介護事業者・施設 との連携協議会を常設して主催するなど、南部医療圏におけ.る脳血管疾患医療のコーディネータ}としての役割を果たすと ともに、脳血管医療センターの利点を生かし、市全体の脳血管疾患医療の連携にっいて、市政との関わりを意識しながら、 全体をコーディネートする役割を果たすべきである。