平成17年5月18日

横浜市立脳血管医療センターに関する緊急の要望
横浜市長 中田 宏 殿
「脳卒中から助かる会」
代表 上野正
同 吉田孝

1.上記センターは全国でも有数の脳卒中専門病院としてこれまでに多くの患者を救い、良質の医療を施すことで広く知られてきた。 事実,脳卒中治療のための厚生労働省研究班における全国で5つの指導的中核病院のひとつに選ばれている。首都圏で最多の脳卒中 救急患者を受け入れる最良の専門病院である。
 ところが、現市長に代わったあと、昨年秋から本年4月までの人事異動によって多数の専任の医師が転出する一方、後任の補充が なされていない。
  このため脳卒中治療の機能が低下させられただけでなく、医師の負担加重による事故発生の恐れさえも排除できない。実際、 この状況は以下のa)~c)で見る通りである。
 市長は横浜市行政の責任者として直ちに専任の医師の補充をおこない、横浜市民の生命と健康を守る責任を果たして頂きたい。
a)専任医師減少の状況

 

2004年4月

2005年3月

2005年4月

神経内科

11

13

11

脳神経外科

4

4

3

内科

3

3

1

麻酔科

2

2

1

放射線科

0

0

0

リハビリ科

5

5

5


しかも、以上とは別に昨年秋から本年4月に脳卒中とは縁の薄い皮膚科、泌 尿器科の医師が専任者として着任した。また、本年2月着任のセンター長は消 化器外科医である(もとのセンター長は脳卒中専門医であった)。 

 b)救急医療のための夜間当直医が昨年までの3名から現在は2名に減員され、 医療体制は手薄となった。このため医師の負担は激増し、このままの状況が続くならば、過労による事故の発生も懸念される。
 このセンターは、365日、24時間専門医が待機し、MRIなどの設備が稼働する 横浜市内唯一の脳卒中専門病院であり、医師はこのことに使命感と誇りを 持って勤務している。この病院をこのような状態に置くことは許されるも のではない。

 c)センターの脳神経外科の専任者の定員は4名。現在は3名しかいない。 近い将来に転出する予定があるといわれ、それ(割愛人事)が認められた場合、 さらに減員して外科手術が出来なくなる可能性もあるという。

2.5月12日付けの神奈川新聞は、中田宏横浜市長が脳血管医療センター について「設立当初の理念のようには出来ていない状況にあって、医師すら"行 きたくない"とするなど魅力が無くなっている」と発言したと伝えている。
 市長には、この発言が事実であるかどうかを明瞭にお答え願いたい。脳血管医療センターは数年前に横浜市が約300億円を投じて設立し、市長はその設置者である。上記の他人事のような発言がもし事実であるならば、市長にはセンターに おける医療によって横浜市民を脳卒中から守るという責任の自覚があるのかどうか、重大な疑問がある。

 脳血管医療センターは脳卒中患者とその家族、市内の脳卒中予備軍にとって大きな支えであり、大きな魅力を持つ。センターの救急医療の存続と充実を求める署名運動は開始後わずか30数日間に4000を越す署名が集まった。  一方、脳血管医療センターの良質で先進的な医療は専門家の間でも高く評価 され、ここでの勤務に魅力を感じる熱心な医師は多い。  医師がセンターに来任しにくい原因はセンターの魅力の欠如ではなく、横浜 市の医療政策の混迷にある。

3.横浜市は昨年秋に突然「センターの機能を見直す」として外部の専門家から成る検討会議を設け、市長はこの会議の結論をうけてのち今後の方針を決めると述べている。
 一方、これとはまた別に衛生局はセンターの救急医療を廃止してリハビリ専門の施設とする方針を打ち出し、本年1月に「改革計画」として公表した。
 これらは二つの異なる方針であり行政の公正を疑わせるが、いずれにせよセ ンターの先行きを不透明なものにした。このため、これまでセンターと関係があまり無かった大学等からの医師は入りにくい。また、従来関係のあった大学からの医師がもとの医局に引き上げる際、横浜市は後任を決める責任を放棄して転出を認めて来た。
 こうして検討会議の結論がでる前に、専任の医師の減少によってなし崩しにセンターの救急機能を無力化して行く。このため患者に危険が及ぶ恐れが増大 しても放置する、という政策が取られてきた。初めに述べた危険な状態はこうして形成されている。「未必の故意」という忌まわしい言葉が想起される現状は患者にとって不安極まりない。どうしてこのようなことが許されるのか。

 中田宏横浜市長には、この事態を直接、的確に把握して直ちに責任ある対策を取ることを求める。
 このことの成否は、政治家としての、人間としての中田市長の信頼性を問う こととなろう。