中田宏横浜市長に対する
よこはま保健医療プラン試案(神奈川県保健医療計画横浜地区地域計画)の記述修正と、担当職員再教育の要望

平成20年 2月12日

中田宏横浜市長に対する
よこはま保健医療プラン試案(神奈川県保健医療計画横浜地区地域計画)の記述修正と、担当職員再教育の要望

「脳卒中から助かる会」
代表  上野 正
(東京大学名誉教授、日本学術会議元会員)

 昨年10月、神奈川県保健医療計画素案と同計画横浜地区地域計画素案が公表され、県民からの意見聴取ののち試案が作成されましたが、横浜地区地域計画(よこはま保健医療プラン)の試案には事実と異なる内容をふくむ不適切な記述が書き加えられています。
 この計画が今後の医療実施の基礎となる事から、ここに要望を提出して、この記述の修正と担当職員の再教育を求めるものです。
 なお、「よこはま保健医療プラン」は横浜市の行政計画として横浜市が作成に関与していますが、同時に神奈川県の地域計画の一つと位置づけられているので、同じ内容の要望を神奈川県知事に提出致します。

【記述修正が必要な理由】
 不適切な記述というのは、試案に書き加えられた「市立病院について」の中の脳血管医療センターの説明です(試案96頁、資料1)。 これは、センターがリハビリ中心の病院であるかのような説明で、横浜市が正式に決めたことも、実際とも合わず、市民、県民の認識を誤らせ、県や市の脳卒中医療の将来にとって有害です。
  1 センターが救急医療を行っていることが出ていない
センターの救急医療は、ただ毎日24時間365日というだけでなく、脳卒中専門の医師が現場に待機して、MRI, CTなどがいつでも使える特別な機能です。 説明で、「市民病院」と「みなと赤十字病院」の救急を伝えていながら、現代の脳卒中医療で特に重要なセンターの救急医療を伝えないなどということは、まじめな説明としては考え難いことです。
 それだけではない。センターの救急医療は「横浜市立病院経営改革計画(平成17年3月)」の方針に基づいて決ったセンターの医療機能三本柱の一つで、これを全く無視していることについては、説明担当者の責任能力が問われます。
 実際、上記改革計画が策定された時点では、センターの医療機能は決っておらず、「脳血管医療センター医療機能検討会議」の検討結果に待つとされており、その後検討会議の報告を受けて正式に決定。 「病院経営局の報告(平成17年12月、資料2)」で公表されました。センターの医療機能は三本柱として図示されています。
     □ 救急医療  □ 急性期医療  □ リハビリテーション  

2 「センターは,脳卒中による後遺症の軽減と早期社会復帰の支援に取り組む脳血管疾患の専門病院として、」と言う箇所があるが,この表現は不適切である。
   これが説明の最初にあるので、読んだ人はセンターの主な任務は「後遺症の軽減と早期社会復帰の支援」だと思ってしまいます。 然し、センターの任務は「病院経営局の報告(平成17年12月)」にある救急、急性期、リハビリの三つの医療機能と、予防などの四つの機能であると決定されていて、「早期社会復帰の支援」はこの中に全く含まれていません。
 これをセンターの主な任務のように誤解させるこの説明は不適切です。

  3 上記の問題箇所を入れた理由が付表にあるが、この理由は誤りである。  
 試案の付表「計画試案の主な変更点」という表(資料1裏面)の中に問題の箇所を入れた理由として、前記「横浜市立病院経営改革計画」の中で、センターが「脳卒中による後遺症の軽減と早期社会復帰の支援に取り組む脳血管疾患の専門病院として」位置づけられていると書いてありますが、これはこの経営改革計画の読み間違いで、この計画の何処にもセンターをこのように位置づけた文章はありません。  実際、市立病院経営改革計画に書いてあるのは「センター設置の根本には脳卒中による後遺症の軽減と早期社会復帰の支援という市の政策目的がある」という内容で、これは、センターそのものが「後遺症の軽減と早期社会復帰の支援に取り組む脳血管疾患の専門病院である」という内容とは全く別のことです。 もともと早期社会復帰の支援という事業は、行政の福祉部門全体の取り組む大きな課題であって、脳卒中専門病院が本来の仕事として取り組めるような事業ではありません。 問題箇所のような見当違いの内容が「経営改革計画」の中にないのは当然のことです。
 センターに期待されているのは、脳卒中専門病院としての役割を果たす中でこの目的に有効に貢献することです。  

4 説明はセンターの特色を伝えず、センターの有効利用に役立たない
 センターの救急医療と急性期医療には、脳卒中専門病院の中でもかなりはっきりした特色があります。
 センターの救急では24時間356日脳卒中専門の医師が待機して、MRI・CTなどが常時使えますが、これが出来る病院は市内、県内でもごくわずかです。
 急性期医療では強力な特効薬t-PAによる治療も行いますが、これが出来るところもまだ多くありません。
 脳卒中は発病後3時間以内の治療が最も肝心なので、こうした情報は大変貴重で、これによって助かる人も多い筈ですが、説明では全く触れていません。
 現在、病院経営の赤字が大きな問題になっている中で、センターの救急と高度医療の情報を伝える事は、市民、県民を助けるだけでなく、センターの患者を増やし、病院経営上もプラスとなる重要事の筈です。
 試案の説明は、市民、県民の利益にも、病院経営の収支改善にも無関心な担当者によって作成されたもののように見えます。

【説明修正の要望点】  
 以上により、センターの説明から誤りを除き、正式に決定された医療機能をはっきり書き、市民、県民の有効利用に役立つものに改めて頂きたい。
 具体的には、
以下の医療機能を書くこと
24時間、365日、脳卒中専門の医師が待機する救急医療
t-PA使用など高度の急性期医療
救急から回復期に至るリハビリテーション
「脳血管医療センターは脳卒中による後遺症の軽減と早期社会復帰の支援に取り組む専門病院として」は削除する
 また、説明の始めの3行は上記1)と重複するので省いてはどうか。
説明の終わりに、以下の内容を盛り込んではどうか 
良い医療や予防などの機能によって、脳卒中による後遺症の軽減と早期社会復帰の支援にも貢献している

担当職員の再教育に関する要望  
 今回の「横浜医療プラン」試案の説明を検討して痛感したことは、
担当者において現代の脳卒中医療に関する知識と理解の甚だしい不足がある。
 また、行政が決定した重要事項を取り扱う責任能力にも問題がある。
担当者は医療計画、報告などの行政文書を正しく理解して、引用することが出来ていない。
などのことです。  
 行政に関わる文書の不適切な理解と引用などが重なれば、事実上の歪曲や、誤った記述が独り歩きして、大きな悪影響を残すことも少なくない。
 以上により、具体的には以下の2点を要望します。

  1)医療関係、とくに医療計画に関わる担当職員に対しては、脳卒中を含む現  代医療の基本に関する再教育と研修を受けさせること

  2)医療と限らず、行政文書、特に計画などの文書の引用に当たって、内容の正確な理解と取り扱いが出来るよう、担当職員を再教育し、指導すること  

 現在横浜市ではバス料金横領問題、パーティー券割当問題などで、職員のコンプライアンス(規律遵守)の問題が重視されるようになりましたが、それとともに、職員が担当する職務を適切に実行する能力や知識に不足がある場合、必要な再教育や指導によって改善、向上を図ることも市民、県民の安全や利益にとって極めて重要なことが痛感されます。