横浜市への要望提出とその後の報告
―脳卒中救急医療体制の推進を求めて―

横浜市は10年ほど前から、t-PA治療が可能な約30病院から成る脳卒中救急医療体制を発足させて、成果を上げて来ました。
私達「脳卒中から助かる会」はこの体制を更に有効に推進するための要望を昨年末に横浜市に提出しました。その内容と、現在までの結果をご報告します。

1. 横浜市では、脳卒中の疑いのある救急患者はt-PA治療が可能な発症後4時間半以内であれば、市の救急医療体制に参加している約30病院のひとつに搬送されます。参加病院については、各病院の脳卒中関係の各専門分野の医師やコメディカルの人数、検査機器の稼働状況、t-PA治療結果その他の治療実績などの情報が市のホームページに公表されています。このように、横浜市の脳卒中救急医療体制は脳梗塞の特効薬t-PAによる治療を基礎にしています。

一方、もう一つの治療として脳血管内治療が大きく進歩し、現在ではt-PA治療と脳血管内治療の両方が、有効な治療として不可欠なものとなりました。
この結果、横浜市でも脳卒中救急医療体制参加病院の8割が脳血管内治療を実施出来、平成28年に行われたt-PA治療の殆ど(全387件の96%)は脳血管内治療可能な病院で実施されています。
このため私達は、これまで十分救われなかった脳卒中患者を救い、脳卒中治療の水準を上げるため、横浜市の脳卒中救急治療体制をt-PA治療と脳血管内治療の両方を基礎とすること、また脳血管内治療の結果をt-PA治療と同様に公表することを要望しました。

2. t-PAは脳梗塞の強力な特効薬ですが、危険な副作用があり、濫用すれば犠牲者が出ます。横浜市の脳卒中救急医療体制の参加病院については、病院ごとの医療体制の詳細とt-PA治療結果を含む治療実績が、毎年横浜市のホームページに公開されて、成果を上げて来ました。

ところが、去年発表された平成28年度の治療結果では、全体の16%と云う多数が「転退院」による結果不明と云う異常事態になっていました。
この事態が続くと、結局はt-PAの濫用による犠牲者が出ること、医療水準が低下する事は避けられません。このため私達は、横浜市が脳卒中救急医療体制を運用する責任者の立場から、この事態の再発を防止する事を要望しました。
また、この事態の一因として「急性期病院と回復期病院の機能分化」の進行があると考えられます。しかし、これによって「急性期病院が治療後の患者をただ回復期病院に送り出すだけで、治療後の結果は把握していない」という事態が進めば、患者にとって全く危険なことです。
急性期と回復期の機能分化が進むからこそ、急性期病院と回復期病院の緊密な連携が一層必要になります。この連携があれば「転退院による結果不明」など起こる筈が有りません。私達は横浜市に、急性期病院と回復期病院の連携を推進することを要望しました。

3. 横浜市からは、1月上旬に前向きの回答が寄せられました:
1 )横浜市の脳卒中救急医療体制については、治療方法の進歩や専門医の確保状況などの診療体制も考慮しながら、体制の充実・強化を目指します。
2 ) 救急医療担当の病院と回復期病院との連携強化に取り組みます。
3 )体制参加病院の脳卒中救急医療の治療実績は、患者や市民に分かり易くお知らせするように努めます。

4. その後、脳卒中救急医療体制参加病院の平成29年度の治療実績と、平成31年4月1日現在の医療体制が市のホームページに公表されました:
1 )病院毎のt-PA治療の報告状態は、前回とは見違える程改善されました。
平成28年度の、全387件のうち、結果不明が62件(16%)、7病院が、平成29年度は、全411件のうち、結果不明が12件(3%)、4病院になっており、これは公表が始まって以来最高の結果です。
2 )脳血管内治療については、平成29年度に治療を受けた患者の年齢分布、発病から治療までにかかった時間分布のほか、患者全体312人のうち229人の、治療3か月後の状態(mRS)等の統計資料が公表されました。
これは、t-PA治療の場合のような病院ごとの治療成績ではありませんが、この方向への第一歩と云えましょう。
3 )横浜市の脳卒中救急医療体制で脳血管内治療を受けた患者は、平成28年度の208人から、平成29年度の312に人へと、一倍半に増え、t-PA治療数との比率も、約1/2から 約3/4 となり、一つの転機を迎えています。

もともと、日本脳卒中学会のt-PA治療指針(2016年版)でも「t-PA治療はもはや単独の治療法ではなく、脳血管内治療との組み合わせで議論すべきもの」
とされています。
私達は、今後一層多くの脳卒中患者が救われるよう、横浜市がt-PA治療と脳血管内治療の両方を基礎とする脳卒中救急医療体制を実現する事を期待しています。