「脳卒中から助かる会」の要望に対する横浜市長の回答について

私達は昨年10月、横浜市長に要望を提出しました。内容は以下の3点です。
Ⅰ 横浜市では、2012年から市のホームページ上で脳卒中救急医療体制参加病院について「病院ごとのt-PA治療結果」の情報公開が行われていたが、2020年に突然停止された。この情報公開は脳卒中医療の安全と水準向上のため重要なので、再開してほしい。
Ⅱ 上記と同様の情報公開を、脳血管内治療についても行ってほしい。
Ⅲ 脳卒中救急医療体制参加病院の「病院ごとの医療体制」と「病院ごとの医療実績」の公開情報が、一部の病院の「未回答」のため、ここ2年来不備になっている。この情報は医療の安全上重要なので、この事態を終結させてほしい。

その後、11月中旬に市長から回答がありました。
Ⅰについては、理由を挙げて非公表にしているとの回答。
この回答については、問題があるので、別に述べます。
Ⅱについては、明瞭な回答はありませんが、Ⅰの回答の内容から、Ⅱで求めた内容そのままの公表はないと判断されます。
一方、「地域全体の脳卒中医療の状況(血管内治療や血管内治療状況を含め)」等については、患者や市民にお知らせするよう努力する―とあるので、現在t-PA治療について行っている程度の公開を行うことは考えられます。もしこれが実現すれば、一歩前進と評価できましょう。
Ⅲについては、要望が実現中との回答がありました。「病院ごとの医療体制」については、2023年度分について全病院から回答があり、既にホームページ上に公開中。「病院ごとの医療実績」についても、「未回答」が出ないための調整が終わり2月に公表予定とのことですが、2024年3月現在まだ未公表です。

要望Ⅰに対する回答について
この回答は、始めに脳卒中医療についての一般的な説明をした後「病院ごとのt-PA治療結果」の公表停止の理由を述べています。
まず、一般的な説明として、
1)脳卒中では、発症から治療開始までの時間が、予後に最も大きく影響するため、最短の時間で治療が開始できる「直近搬送」が最優先事項である。
2)このため、横浜市は脳卒中患者を直近搬送する医療体制をいち早く構築し、救急隊に治療可能性の情報を伝えるシステムを運用している。

ところが、説明1)の内容は事実でなく、2)の内容の前半は誤りです。
1)について 現在は、t-PA治療や脳血管内治療のような効果の大きい治療が出来るようになった結果、脳卒中の予後に最も影響が大きいのは、発症から治療までの時間よりも、有効な治療を受けられることである場合が少なくありません。この場合には、直近搬送は最優先事項ではなく、この治療ができる病院に搬送することが優先事項です。
2)について 横浜市が脳卒中救急医療体制を作ったとき、t-PA治療ができる病院を参加病院とし、患者の搬送も、t-PA治療が可能な発症後3時間以内(のち4時間半以内に改定)の患者を体制参加病院に、その他の患者は体制非参加病院に搬送すると決め、これは現在も同じです。
この制度では、t-PA治療が可能な患者は、どんなに近くてもt-PA治療ができない病院には搬送しないので、直近搬送ではありません。この制度は、t-PA治療の可能性を最優先する制度です。

次に「病院ごとのt-PA治療結果」の公表を停止した理由として、
3)上記の考えを踏まえると、病院ごとのt-PA治療結果の情報は、必ずしも病院ごとの評価を正確に表すものではない。
4)公表されたデータが良いという理由で遠方の病院に搬送されたために、治療が遅れて治療結果が悪くなる懸念があった。
とありますが、この主張は妥当なものなのでしょうか?
3)について 横浜市が2019年まで公表していた「病院ごとのt-PA治療結果」は、治療前の患者の状態を示すNIESSの点数と、治療3か月後の患者の状態を示すmRSの点数との対照を病院ごとにまとめたもので、脳卒中治療を評価するために.国内はもちろん、国際的にも広く用いられている標準的な資料です。
一方、「上記の考え」は、この場合「脳卒中の予後には、発症から治療開始までの時間が最も大きな影響を与える」との考えと思われますが、この考えはもともと「病院ごとの評価」とは無縁のものです。
したがって、3)の主張は根拠のない非難に過ぎません。
4)について この主張は、患者を搬送する救急隊員が公表されたデータを見て、「遠い病院」に患者を搬送したため、治療が遅れて結果が悪くなる事態を懸念しています。
しかし、横浜市の実際の救急隊員は、消防局指令センターの指示に従って搬送しており、市のホームページを見て搬送しているわけではありません。
したがって、このような事態は実際には起こらないことなので、その懸念を理由に重要な情報の公開を取り止めるなど、考え難いことです。
以上により、横浜市長の回答が「病院ごとのt-PA治療結果」の公表を停止している理由として挙げた内容は、正当な理由として通用しません。
したがって、横浜市はこの情報公開を再開しなければなりません。

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